『はじまりのうた』

 

 これ好きなんだよね。ジョン・カーニー監督の最近の三作の中で一番。
はじまりのうた>once ダブリンの街角で>>>シング・ストリート かな。

歌だけで言えばはじまり>シング>once なんだけど。どうでもいいか。

マーク・ラファロがいい。決してハンサムガイではない彼が、彼にしか出せない色気を出している。こういう俳優に弱い。自分を客観的に見られて、自己プロデュースもできる男。役によって自分を全く変えられる。そして身長があまり高くないというのが個人的なツボ。身長というのは下らないメリットだが明白すぎるメリットで、男でこのメリットを持つことができない男はいろんな工夫をする。それが魅力になってる場合は、単純な高身長男より数倍魅力的だ。

キーラ・ナイトレイもいい。パイレーツ・オブ・カリビアンの頃は、こんなブロックバスター作品に出るタイプじゃないのになーと勝手に思っていたが、その後もこういう佳作に出てるのを見るとホッとする。歌声もいいよね、押し付けがましくない歌声で。それとこの人は笑顔があけすけで好感が持てる。意外とガハハ笑いするんだよね。

そして先に売れる彼氏を演じたマルーン5のアダム・レヴィーンがまたいい。演技うまいなー。上手いっていうか、自然。ジョン・ボンジョヴィも自然な上手さがあるし、アメリカ人のアーティストって演技上手いのか。ってその二人しか知らないけど。後、アダムは当たり前だけど歌が上手い。この役は歌が上手くないといけないんだよね。それも抜群に上手くないといけない。ラストシーンが重要だから。

そして友達のスティーブ。彼が影のキーキャラクターだと思う。彼がもしグレタ(キーラ)に少しでも男女の感情を抱いたら、この映画はもっとめんどくさくなっていた。でもイギリス人にいそうだよなこういう男。エネルギッシュで貧乏に耐性があって底抜けにいいやつで、異性に対して完全な友情を貫ける、みたいな。ちょっとウソっぽいけど。ゲイなのかな。それはどっちでもいいけど。

ラストシーンは色々解釈できると思う。

自分は、彼女が作ったあの歌をああまでデイヴ(アダム)が完全に歌いこなしたことで、「ああ、これはもう自分の曲じゃない、彼のものだ」と思ったんじゃないかと思う。または、気軽に浮気なんかしといて、元カノの歌をしれっと情感込めて歌ってしまう彼の中に相容れないものを見たのかも。彼はこれからも浮気するかもしれない。でもそれはそれで切り離して、きっと今と同じように歌える。そういう人なのだ、と。歌をひとくさり聞いただけで、彼の浮気を見破るくらいの感性の持ち主だ。歌から受け取るメッセージは人よりずっと多いのだと思う。ただ、彼の実力は疑いようもない。彼はステージで、大衆受けするポップスアレンジではなく彼女が望んだオリジナルのアレンジを選んだ。それで歌って、そしてあそこまで観客の心を掴んだのだ。果たして彼女自身が歌ったとしてさえ、そこまで多くの人の心がつかめるだろうか。彼は本物だ、と思っただろう。そして自分がもうそばにいる必要はないのだ、と感じたのだろう。

そんな解釈を自然としてしまうくらい、最後のアダムの歌唱は素晴らしかったんだよね。やっぱプロはうめーわ(笑)

最後、ヨーロッパ版も作りたいねというグレタに、すぐに頷こうとしないとダン(マーク)。二人が別れる時の目と目の会話もよかったな。「私たち、タイミングが違ってたら付き合ってたね」「そうだね。でも、その時はすぎてしまったね」という会話が明確に聞こえるくらいの見つめ合い方だった。しかし、一度自分から心を移した奥さんに戻れるものかね、ダン。振り切って走っていくグレタの方が賢いと思うけど、まあ、人生は人ぞれぞれ。