『アドルフ』コンスタン

 

アドルフ (岩波文庫)

アドルフ (岩波文庫)

 

 こういう、一つだけのテーマに絞って書いている短編はいいですね。印象が強く残るし、ストーリーと対話がしやすいというか。

表紙にいきなり
「これをしも恋愛小説と呼ぶべきであろうか」
と、古文体の大胆な投げかけが(笑)
表現が硬くて分かりにくいのですが、要するに告白して両思いになるまでの過程は書いてあるけどほんの前フリで、その後の、次第に情熱がしぼみ、しぼんだ後も情にからめとられて身動きが取れない人間の生態をつぶさに描くことがこの物語のテーマであるということだと思います。そのプロセスだけに注目して書かれた小説という意味では恋愛以外の題材はない小説なんですが、見て分かるように「いわゆる」恋愛小説ではない。ということで冒頭の「これをしも…」の大演説につながっていきます。

人はいろんな風に恋をして、いろんな風にそれを手に入れ、いろんな風にそれを飼いならしていく(棄ててしまうということをしないならば)と思うので、この主人公の心の動きに甚だしく著しくおびただしく共感する、という人もいるだろうと思います。もう愛情はないんだけど、その後のずるずるべったりがどうしても断ち切れないというパターンは今でもよくあるし。

ただ今と違うのは、女性が1人で生きていけない時代だから、こういう恋に振り回されてしまうと致命的になってしまうということと、男も騎士道精神の華やかな時代だけに、それに捕われて一生を棒にふってしまう可能性があるということ、なのかも。ページを繰りながら、同じ女として、こういう時代に生まれなくてよかったなぁとしみじみ思いました。自分の人生の手綱を自分で握れないなんて、そんな不自由な時代は嫌だわ。

ただ、エレオノールは何度か1人で生きて行ける富を持てるチャンスがあったのに、それを取らなかったので、時代のさだめというよりは、彼女自身の精神のあり方が、最終的に彼女の末路を決めたのかもしれません。アドルフにしても、エレオノールのことがあってもなくても、たぶん大した人間にはならなかったんだろうという気がする^^;

女性の自立が難しい時代にあっても、もっと粋な恋の貫き方があると思うのです、「椿姫」とか、「マノン・レスコー」とかは、読んでてもっと楽しかった。「アドルフ」は男も女も、ちょっと残念な感じが拭えず。そもそも、この二人の間にあったものは恋でも愛でもないような気がする。それだからこそ、すっぱり断ち切れずずるずる続いたんだと思う。最初から存在しなかったものの燃え殻を必死でかき集めようとしても、ないものはないんだから。でも、二人とも、無理矢理「ある」と言い張ってあそこまで行ってしまった。だから、ある意味、「なんだそりゃ」というツッコミひとつで終わる話でもあります。

だけどまあ、ああいう感情が世間が言う「愛」とか「恋」というものの味気ない正体なのだ、と信じて終わる人もいるんだろうな。