『ウォルト・ディズニーの約束』

 

エマ・トンプソンが好きで、ディズニーアニメには思い入れがあんまりない、という人にはとってもおすすめ、つまり私(笑)

エマの出ている映画は、私にとってはどれもハズレがない。エマの選ぶ映画と、私の好きな映画のタイプが近いんじゃないかと思う。恐れ多いけど。エマ好きなのよねーとにかく。演技がうまいし、頭がいいし、あったかいし、ガサツを危うく免れるサバサバ感。そのへんのバランス感覚が。私がロンドンに住んでた頃、エマがウェスト・ハムステッドに住んでると聞いて何度か通ったよ^^;

この映画は、メアリー・ポピンズの作者でもある偏屈で無愛想な女性作家パメラが、ディズニーの説得に折れてアニメ化を承諾するまでの話なんだけど、メアリー・ポピンズ自体はこの映画のモチーフとしてそんなに重要視されてない。されてるのは、エマ演じるパメラがどのように心を閉ざしていて、どのようにそれを開きうるのか、ということ。優しいけど生活力のない父親を、主人公は幼い頃から愛していた。成長するに従って父親の不甲斐なさも分かってくるんだけど、父親自身、そんな自分が嫌で嫌で仕方ないという精神構造を、娘だからよく理解して、なんとか救おうと努力する。

でも結局、世界は彼女の希望にこたえてくれず、やがて彼女も世界と交渉することをやめてしまう。

彼女の中には、幼い日のままの少女が住んでいる。彼女はそれを守りたくて、ガチガチに鎧を着込んでいる。

トム・ハンクスウォルト・ディズニーがまたいい。ブルドーザー並に前向きで積極的なアメリカ人。だけど彼とて恵まれた人生だったわけではない。パメラと種類は違うけど、苦労に苦労を重ねた少年時代がある。けれども彼はたくましくそれを乗り越えて、今は多くの子供たちに愛や夢をもたらす英雄になった。苦労は前面に出さず、明るく、闊達な人柄。そういうサクセスストーリーと、あくまでプラス思考な感じも、アメリカらしくてとてもいい。

パメラも、ウォルトのそういう背景が分からないわけではない。ウォルトも、パメラの抑圧された心を理解している。それでも、2人は哲学が違って、メアリー・ポピンズをどう映画化するかで対立がとけない。

ウォルトがメアリー・ポピンズをフワフワしたミュージカル仕立てにしたいのは、パメラの気持ちを理解しないからではなく、そういう哀しみや割り切れなさを表に出すことを好まないからだ。でもパメラには、それは嘘と写ってしまう。

ウォルトは最終的に、パメラの言い分を無視して自分のやり方を通す。このあたりの非情さも、ウォルト・ディズニー・カンパニーを率いる大社長らしい、納得の判断だ。ぎりぎりまでは心を尽くして話し合いをする。でも、最後の決断の時に分かり合えていなかったら、それ以上は引きずらない。大勢の社員を抱えた身であってみれば、当然のことだと思う。ウォルトのこだわりは、大人としてのこだわりだし、パメラのこだわりは、少女のこだわりだった。だから負けてしまうことは、たぶんパメラも分かっていたんだろう。

最後、映画の試写を見て、パメラは涙を流す。その理由は説明されない。後世まで多くの人に愛された、その映画を見て、思わず素直に感動したのかも知れない。または、自分の意思をへし曲げてこんなものを作られてしまったという、悔恨の涙かもしれない。

私も試写のシーンで泣いてしまったんだけど、理由はよく分からない。
なんか映画がほんとにフワフワしてきれいで、みんな嘘みたいに楽しそうで、それでなんだか泣けたのだ。パメラは涙を流しながら、心で父親を呼んでいるような気がしてならなかった。そしてその涙は、あたたかい涙なのだと、私は思った。実際のところは、分からないけれど。