槇原敬之

 

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マッキー、最近全然聞いていなかったんです。爆発的に売れていた90年代は結構好きだったんですけど、例の事件があってから、私は薬も同性愛も特に拒否反応はないので、まあ、薬に拒否反応がないというとヤバい奴みたいですけど、薬をやったから強制終了、みたいには考えないという意味なんですが。

ただ、あれ以来、なんというか、マッキーは見ちゃいけないような気がしてました。マッキーが見られたくないんじゃないか、みたいに思って。変かもしれないですけど。堂本兄弟に出てるのとか見ても、なんか、心から楽しんでるように見えなくて。すごい気を遣ってるように見えたんです。だから見てると気が重くなって、自然と見なくなった。曲も、あれ以降あまり好きなものがなかったし。

ただ、最近「今日、会社休みます」で「FALL」を聞いて、ひさびさに好きな感じの曲だな〜、昔を思い出すな〜と思って、そこからまた、ちょっと聞くようになりました。そしてお得意のようつべ巡りでここ数年の曲を聞いていった時に、特に衝撃を受けたのが上に貼り付けた「軒下のモンスター」。

歌詞の内容を言っちゃうと、田舎に引っ越してきたありえないくらい都会的な空気をまとった「君」に許されない恋をして苦しんでしまう「僕」の歌です。その都会的な人というのが、「彼女もできない」とか描写されてるので、やっぱ男性なんだろうなと思うんです。

ネットでは「槇原敬之カミングアウトの曲」と言われてます。

私はリアルタイムであの噂を聞いてから、たぶんマッキーはそうなんだろうなと思ってて、それでもマッキーが「ゲイですけど何か?」っていう雰囲気を出してくれれば、昔と変わらず見ることができたと思うんだけど、そのへんの話を不自然なくらい覆い隠されてしまったので、それで距離感を感じてしまったんだと思う。まあでも考えれば、「ゲイですけど何か?」っていうのも、相当な勇気いるよね。私は完全な他人だから「ああそうか」って思うだけだけど、身内とか幼なじみとかは引いちゃうかも知れないし。一部のファンも引くだろうし。特にマッキーの初期のラブソング好きっていうような人、同性愛とは対極にあったりするかもしれないし。

とにかくそういう、「果てしなく噂は本当という雰囲気をまといつつも最終的な部分はボカシでいきますよ」的なスタンスを貫くんだろうと思ってたので、曲の中でここまであからさまに告白してるものがあるとは知らなかった。しかも相当切ないぞこれ。ここまではっきり(と見える)語られると、やっぱゲイなのか、と今更のように実感する。だって、彼の曲に出て来る女性がみんな現実にいそうな、すごいリアルな人物像なものだから、ゲイという噂がでて「そうかもな」と思いながら、曲を聴いてるときは「まあでも、女性が好きなこともあったんだろう」とどうしても思ってしまうんです。でも「軒下のモンスター」を聞くと、彼はたぶん最初から…?らしいし、だとすると、普通に女性を想定させている曲達が逆にすごい。どうやってストレートの恋愛をここまでリアルに書けるのだ。これが才能というやつなのか。想像なのか見聞なのか、見聞に基づく想像なのか。なんにしてもすごい。彼の歌詞が日常生活のさりげない一コマを上手に描写しているものが多いので、余計に。観念的な歌詞なら想像でもいけるのかもしれないけど、あそこまで生活感溢れる歌詞が想像で書けるのかなあ、ほんと不思議。しかも、想像しているのは実は男性だけど、字面だけ「彼女」に変えてるとも思えないんですよ。そこにいるのは、まぎれもなく女性なんです。そのへんがね、もうほんとに不思議。すごいと思う。やっぱ才能なんだかな〜。

セクシャルマイノリティの人達に対して私が感じるのは、ただもう、大変だろうなっていうことだけなんです。ただ生きて行くだけでも、自分の性別に別段違和感もなく、普通に異性が好きな人にくらべたら、毎日毎日がデフォルトで辛いんじゃないかと思うんですよね。「神様に選ばれていない」的な、無意識の宗教的な責め苦もあるでしょうし。親や家族との関係もあるだろうし。ただ、そう生まれたというだけなんだろうに、ね。この歌みたいに、その辛さを歌ってくれている歌があると、ほんのひとときでも救われるかな。だといいけど。

マッキーは他にもappreciationみたいな問題作を歌ってて、なかなか攻めてるなと思いました。所属レーベルもかなり二転三転してて、複雑なビジネス事情が絡んでそう。逮捕もあったし、いろいろ音楽以外のところで波乱のある人ですよね。有名になっただけ落ちた時の落差は大きかっただろうし、世間の無理解や軽蔑みたいなものも辛かっただろうし、ヒマな人はいまだに槇原敬之っていうとその手のからかい方しか知らないみたいなとこあるからね。でもFallとか聞いてると昔みたいで、紆余曲折があっても音楽性や創造性を損なわれることなく進んで来てるんだなと思います。そのくらい、この人にとって音楽は必要な、生きる術なんだろうと思う。ある意味、薬でさえも彼と音楽の間のつながりを断ち切ることができなかったと言えるのでは。今は個人レーベルみたいだけど、個人レーベルとかにしちゃうとそっから全然売れなくなる人もいるけど、マッキーはそうじゃないね。やっぱり、才能のある人なんだと思います。

 

 

Heart to Heart

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