『列車に乗った男』

列車に乗った男 [DVD]

列車に乗った男 [DVD]

 「ぼくの大切なともだち」が良かったのを覚えていたので、借りてみました、パトリス・ルコント

髪結いの亭主」とか、彼が昔一回流行った頃の作品はそんなに好きでもなかったんですが。

でもパッケージ見るからに好みの予感。そして、予想通りよかったわぁ、こういう映画見られるってほんと贅沢だよねぇ。心底美味しい料理を食べてる時とか、ちょー気持ちいいマッサージを受けている時みたいな、そんな感じがします。

強盗役の男性は、フランスでは有名なロックシンガーなのだそうです。
役者じゃないのに上手いよな~。
いかにも流れ者、いかにもワケあり、ジムで鍛えたピカピカの筋肉っていうよりは、実戦でやむをえずついた筋肉という感じ。しかもそんなに熱心に維持しようとしてないから、そこそこ老いてきてる。
だけどもう、画面越しにも匂ってきそうなくらい。むさくるしい男性の色気が。
そんでまた、目が。青すぎるやろっていうくらい青いね。笑
黒髪に青い目は反則や。(なぜか関西弁)

老教授の家、これもまた、埃臭さの匂ってきそうな古屋敷で。
ごちゃごちゃと年代物からどうでもいいガラクタまで、捨てるのも面倒だし、どうせ場所あるから放置って感じでそこらじゅう散らかっている。
ありそうだよね、ヨーロッパの片田舎にこういう屋敷。
たぶん、家全体が傾いていると思うよ、ちょっと。もう、徹底的にボロいのよ、温水シャワーとかもまともに出なさそう。

だけど、そういう「匂ってきそうな感じ」が、フランスなのだよね。
アロマとかいい匂いだけじゃなくて、腐臭や体臭なんかも全部混ぜたのがフランスの匂いって感じ。


最後、2人ともが成功するという可能性は一番低いと思ってたけど、私は悲しいラストシーンは嫌なので、やっぱりそれを願っていました。
次に考えたのは、教授が助かって強盗が死ぬラスト。
そして一番起こってほしくなかったけど、フランス映画であるがゆえに一番ありそうなのは、2人とも失敗して死んでしまうラスト。

ただ、ここまでに2人の人間性をとても細やかに書いて来て、最後「世の中って上手く行かないもんなんだからさ」っていうある意味投げやりな態度で2人とも死なせるのも、それもそれでお手軽すぎないか?どう着地させるのかなぁ?と思いながら、パソコンから1mくらい離れて(←血が出るの怖いから) 見ていたんです。

もしかして2人の結末両方、「後は読者の皆さんの想像にお任せ」的な幕切れとか?
まさかなぁ。それも安易。やっぱり、どっちかが生きてどっちかが死ぬのが現実的かなぁ。

もんもん。

そしたらあのラストでした。
なるほどー。やられました。

2人は死んでしまうんだけど、死ぬというフェーズを超えていきました。
体は死ぬかも知れませんが、2人の魂は、安らぎ満たされていくのだろうと思いました。
とはいっても、スピリチュアルな話ではなく。
ただ、2人の人間が死ぬ間際に見た、甘くて苦い絵空事
だけど、それで救われることもあるんだと思う。
死ぬ間際の何秒か、それがそこまでの人生すべてに匹敵する。

死ぬのが怖い、死んだら最後、死ぬのは最悪の結末。
そういう観念とは無縁でした。
自分の想像を気持ちよく裏切られました。

強盗なんだと分かっても、ふだんと変わらない教授の態度。
そして、それでいて「ああ、バレてるな」と気づく強盗も冷静なもの。
こういうところをやかましく描かないのも、フランスらしい。
あまりフランスフランスと、もてはやすのも何ですが。
そういう私も、リアルフランスはあまり好きじゃなかったりする。
ただ、文学とか映画は、結構好きな物が多いです。フランス。
なんだかんだ言っても、彼らは大人ですよ。
日本でも、こういう大人の映画ができるといいんだけどなぁ。
もっと、人生の垢をいっぱいためて、図太く生きていかないとダメかもね。
うちら、すぐお風呂入っちゃうから(笑)

地獄の底とは言わないまでも、何かの底を覗いてしまったことのある人には、きっと分かる映画だと思います。

パン屋のくだりは、憎いほどのフランス映画でしたねー
あれは笑わずにはいられない。