『スモーク』

SMOKE [DVD]

SMOKE [DVD]

私にしては珍しく、ジャケ買い(借り)したDVD。
これはとっても気に入りました!!買ってもいいな。何度でも見られる映画です。

僕らのミライへ逆回転』でも言いましたが、その土地の人がディープに暮らしている、そういう話が好きです。日本で言えば、小津安二郎の映画とかです。
この映画もそう。ニューヨーク・ブルックリンの片隅でタバコ屋を営む主人と、そこの常連たち、そして彼らを取り巻く人々のそれぞれの人生。

ひょんなことで黒人の少年と知り合いになる白人の小説家。
少年は、地元で有名な不良グループから逃れるために小説家の家に転がり込んでくる。
「ここだって、その場所からそれほど離れていない。危険じゃないのか」
と問う小説家。
「ここは場所は近くても、別の銀河系みたいなものだ。つまり、白人の住むエリアだからさ。両者は決して交わらないんだ」
「このアパートでは交わったと思うが」
首を振り、苦笑する少年。
それを見て、小説家も悟る。
「そうだな。幻想を抱くのはやめにしておこう」

この最後のせりふが(うろ覚えなのでちょっと違うかもだけど)、映画のテイストをよく表していると思います。
すべての人間が理解し合い仲良くなれるなんて思っていない。それは自分の思惑とは関係ないところで、これまでの歴史や、政治的背景や、いろんな人々の利害などが複雑に絡んでいて、自分はそれに対して無力なことを知っている。
しかし、そうは言いながら、自分に何かできることがあれば、してやりたい。
決して英雄気分とか、そういうことではなく。たとえば、自分のところにたまたまボールが飛んで来たとして、自分の投げる方向ひとつで誰かの運命が良い方に変わるなら、多少投げ方に気を遣うもんだろう、誰だって。
そういうことなんじゃないでしょうか、この映画は。

ハーヴェイ・カイテルがお金を渡した後で、「あの娘は俺の娘じゃないんだろう?」と聞き、去って行く前に軽くウィンクするシーンがちょーかっこいいです。私の中でハーヴェイ・カイテル株高騰中です(笑)あの渋さはなかなか、誰にでも出せるもんじゃないですね。

ウィリアム・ハートもよかった。小説家の役なんですが、ああいう、「たぶんインテリなんだろうけど、どういうわけか今は身を持ち崩してしまった小説家」っていう設定に彼はぴったりですよね。この2人をキャスティングした時点で、この映画半分はもう成功してると思う。

全編通してみんなやたらタバコ吸ってるのですが、みんな似合います。
副流煙とか受動喫煙とかも分かるのですが、最近の禁煙ブームはちょっと行き過ぎじゃないかと思う事もあります。
人に色を添える道具の一つだと思います。香水とか、ああいうのと同じ種類の。