『スラムドッグ$ミリオネア』

スラムドッグ$ミリオネア [DVD]

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私好みの映画じゃなかったけど、よく出来てました。いい作品はいつもそうですね。
感性が同じ人にはもちろんですが、感性の違う人までに、「好みじゃないけど、認める」って言わせる映画が、上質な映画なんでしょう。

スラムの風景、色、音楽がどれもよかった。
いわゆるステレオタイプではない撮り方が上手いんだけど、一切の先入観を排して現実を切り取ろうと肉薄しているというのともまた違い、新しい、未来のステレオタイプを提供してるというか。やっぱり、「外国人から見たインド」に変わりはないなという気がする。でも、それがとてもよかった。私にはよかった。

でもスラムの子供時代は悲惨。いまどきの映画は暴力なしには観客を感動させられないのかな。
それは事実あることなんだろうし、その貧困を強いている世界のどこか別の先端には必ず自分がいるんだろうとは思うけど、お金払ってまで見せられないといけないのかな。なんか、目をつぶされた子も、殴り殺されたお母さんも、電流流される主人公も、みんな私みたいに思ってしまうので、いちいち痛くてしょうがないです。
ここが一番、この映画で好きになれないとこでした。

でもこの映画は、一言で言えばポップで悲惨。悲惨さを悲惨なだけにしないところが今風なんでしょう。トレイン・スポッティングは見てませんが、たぶん同じ雰囲気なんでしょう。

ストーリーは、主人公の子にあまり共感できなくて、ほとんど
「融通のきかない弟を持つと、おにーちゃんが犠牲になる」
という話にしか見えなかった・・・かも知れない。
大人になったおにーちゃんを演じた役者さんがセクシーでカッコよかったということを差し引いても。
ええ、差し引いてもですよ、まあ、かなり好みだったけど(笑)

最後に札束をばらまいた浴槽で銃をぶっ放したシーンは、なんとも言えなかった。
やっぱりだめかー、生きれないかー、って思っちゃって。でも、生きていてほしかったな。
誰かの幸せというのは、ほかの誰かの不幸せという犠牲の上にしか成り立たないものなのかも知れない。といって悪ければ、皆が不幸になりそうな状況のとき、皆で少しずつ不幸になるのか、それとも誰か一人が大きな不幸を引き受けて、その反動で別の誰かを幸せにするのか。

でも、最後はずいぶんキザに自分の花道を飾ってたな。
それがさらに哀れを誘うというよりは、微苦笑というか、なんとも言えないビタースイートな気分になったよ。
スラムの生き方をかわいそうと思うのはスラムに生きる必要のない人たちなのであって、そこに生まれて育てばそれが自分の全世界だし、そこで生きて行くのが人生そのものなんだと思う。
殺したり殺されたり、傷つけたり傷つけられたりを間近で見る生活の中では、自分の死の捕え方も違ってくるんだろうなと思う。死は、誰にもひとしく死であるとしても。

でも、それでも私は悲しかったけど。
だって私はスラムに関係なくのほほんと生きて来た部外者だからね。
だからかわいそう。
皆がみんな幸せになるという、世間知らずな、なまぬるい夢物語が実現しなくて、ほんとにかわいそうだよ。

最後にボリウッドダンスを踊りまくってた群衆のなかに、おにーちゃんがいないか必死で探してしまったよ。笑わせてくれ。最後に。