『そして、私たちは愛に帰る』


決してアンハッピーエンドの話ではないんですが、布に開いた穴をかがったと思ったら、別のところに穴を見つけ、それもかがったと思ったら、別のところにまた見つけ、よくよく布を見ていたら、ずいぶんボロボロであちこち穴だらけだった、というような、物悲しさを感じさせる作品です。

大学教授をしている息子が比較的安定していて、よかった。みんながみんな、よるべなく漂う浮き草のような人生だから、一人でも定住しようとしてる人がいるとほっとする。定住しようとする試みとは、なんて力強いものだろう。

個人的には、ドイツ人のお母さんがいちばんじんときた。
あのお母さんはお母さんで、自分の居場所を見つけられず、魂が漂泊していたんだろう。
娘のいた部屋で、
「あの部屋だとよく眠れるの」
って言ったシーンは、じわっと来ました。

政治運動に身をやつしているアイテンも、彼女に過剰に肩入れし、助けようとするロッテも、「トルコがEUに加盟すればすべてうまくいく」というお母さんも、誰一人尊敬できるような人はいない。だけど、願いだけは感じる。

この願いが人間の人生を、どのようにも変えてしまうのだ。
よくも、悪くも、取り返しのつかないほど悪くも。
しかし人は、願いを一つも持たずに生きて行くことはできない。

そんな風なことを考えさせられた作品。
好みかそうでないかとで言えば、好きな雰囲気の作品ではない。
うすら寒い感じが、慣れない。
ただ、こういう世界はどこかにあるんだろうな、と思える。