『エーリカ あるいは生きる事の隠れた意味』

エーリカ あるいは生きることの隠れた意味

エーリカ あるいは生きることの隠れた意味

一つ前のエントリで書いたのですが、この本の書評がネット上に殆どない事に気づいたので、書くことにしました。

体裁は絵本なのですが、子供向けではありません。
大人の為のほろ苦な童話です。
しかも、私くらいの年齢層で、境遇の人に向いていると思います。
30代後半の女性で、ちょっと人生に疲れてるような。

「生きる事の隠れた意味」という副題は余計なのですが、たぶんそれがないと完全に子供向けだと取られかねないからでしょう。ミヒャエル・ゾーヴァの絵は子供向けにしては毒々しいところもあるけど、分類上は子供向けなんだろうし。

訳文なのでごつごつした岩の上を歩いているような文章ですが、上手いのか下手なのか分かりません。これでいいのかも知れません。ただ、あちこちについてる注釈はいくらなんでもうるさい気がします。アスタリスクがついてるだけでも、読んでるほうは気がそがれます。ユリシーズじゃあるまいし、ちょっとくらい分からない言葉が出て来たとしても、「知りたければ自分で調べて」っていう態度でよかったんじゃないかな。この主人公のような、独身だけど自分で生計を立ててるような、自立した女の人なら断然そっちを好むだろうと思います。

ただ、お話自体は、思ったよりずっとずっと良かった。
心に残りました。
ゾーヴァの絵がなかったとしても、「良かった」って思ったと思う。

等身大のふかふかしたブタのぬいぐるみを抱えていたら、確かにそういう反応が周りに生まれるだろう。それによって主人公の心が癒されるのも、さもありなんと思います。そういう、ちょっとしたことでいいんだけど、一人きりじゃその「ちょっとしたこと」も起こせなくて、迷い込んでしまうんだよね。
そして必要なのは辛辣で刺激的な元恋人じゃなく、一瞬のふんわりした気持ちなんだ、ってこの人は思ったんじゃないだろうか。(私はそれでも、あの元彼も、そのふんわりした優しさを必要としてたんじゃないかなと思ったけど)
アメリカ的エンディングなら、最後に出て来たコックさんと今後の展開を匂わせるところでしょうが、ただ置いて出て来てしまう、そういうブツ切れなラストも味わい深いです。

夜の駅にエーリカと「2人」で降り立った、そのシーンの挿絵が素晴らしい。
ゾーヴァで2番目に好きな絵かも知れない。あの中にいる主人公になりたい。
やっぱり、私は旅にまつわる絵が好きみたいです。

めったにつけませんが、☆5つです。