お祭り騒ぎは夜通し

ケンタウルス露を降らせ

『マダム・フローレンス!夢見るふたり』

 

マダム・フローレンス!  夢見るふたり [DVD]

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久しぶりに映画を見た。

頼りにしているYahoo!映画のレビューではあんまり評価高くなかったので、それほど期待しなかったけど、これは良かった。しみじみと。

評価高くない人に多い意見は、シンクレア(夫)がフローレンス(資産家でオンチの奥さん)をそこまでして支える理由が分からない、というもの。
これはその通りだと思う。そこは細かく説明してない。なんなら二人がなぜ籍を入れてないのかもよく分からない。だから、二人の関係性に共感できるかどうかは、観る人が個人的に似たような経験をしたことがあるか、または性格的にたまたま共感できるか、にかかっているようなところがある。

自分は幸い、すんなり入ることができた。これは、人によるとしか言えない。

大感動とか、強く印象に残るようなものは何もない。そういう意味では、メリル・ストリープの演技がちょっともったいなくもない。あんなに歌が上手いのに、下手な歌い手の役までこなせるなんて、なんてこった、隙がなさすぎるぜメリル・ストリープ!(笑)

でも二人の間の優しい感情にしみじみと泣けたのだ。フローレンスは取り返しのつかない悲しみから逃げ切ることもできないまま、どこか手放しの、あけすけな生命力によって生きている。そのバランスの悪い生に、シンクレアという男は吊り込まれてしまう運命を持っているのだと思う。そういう男を演じるのにヒュー・グラントという俳優はうってつけだ。この人も、何かバランスの悪さを抱えて生きている気がするから。

金持ちのじいさんと結婚してた金髪のねーちゃんは良かったな。シンクレアのアパートでオールして、翌朝も妙に溶け込んでたし、あそこでシンクレアの愛人も見て、色々感じたんじゃないかな。そして、フローレンスのロックな生き方にどこかで共感したんだと思う。ああいうねーちゃんは粗野だが爽快で、かなり正しい直感を持っている。

ああいうタイプの人間がいると人生はめっぽう愉快になるのだが、最近は少なくなったよね。

カレル・チャペック『ひとつのポケットから出た話』

 

ひとつのポケットから出た話 (ベスト版 文学のおくりもの)

ひとつのポケットから出た話 (ベスト版 文学のおくりもの)

 

 

金曜の夜の図書館で、カレル・チャペックって、どっかで聞いたな、なんとなく美味しそうな名前だなと思って借りたけど、よく考えたら同じ名前の紅茶の店がある。フレーバーティを飲んだことがあって、だからかと思った。

これはいい本だった。とか言いつつ、延長しまくって、返却まで1ヶ月以上かかったけど。ページを繰るのももどかしい、みたいな本ではない。後、一話読み終わるたびに余韻に浸りたくなって、一気に何話も読めない。で、遅くなる。

短編集で、一応、事件仕立ての話が多いので、ミステリーといえばミステリー。でも推理物ではない。

人が死んだり警部が出てきたりするけれど、作品のテーマは人の人間性。矛盾とかすれ違いとか、固定観念とか。それが難しい言葉じゃなくて、あくまで日常生活を超えない範囲の設定と文章で描かれる。

今の時代でも普通に通用するんだよなあ。舞台はあくまで1920年代のチェコで、出てくるのもチェコ人なら、あちこち出てくる地名もみんなチェコ

だけど人間性というのは、普遍のテーマなんだろう。
いちいち、読むたび納得するのだ。普段人ってこういうものだなと思ってる、それとおんなじ視点の作品に出会うと、急に明かりで照らされたみたいにハッとなってしまう。

たとえばこんな話がある。

若い男女がリゾート地で、ある警部とたまたま同じテーブルにつく。女が不意に落とした靴屋のレシートがきっかけで、警部は2人に、同じような何気ないレシートが手がかりになって解決したある事件の話を語って聞かせる。

それは地方から出てきた貧しい女が、愛人に裏切られて殺された哀れな事件で、その女が死んだときポケットに入れていたレシートがなかったら、誰も真相を知りえなかった。警部は向かいに座る若い2人に向かって、真面目な話、たかがレシートと思って捨ててしまわず、何でも保存しておくにこしたことはないと話す。

男はちょっとした面白い話を聞いたという程度で、すぐ別のことに興味を移してしまうが、女のほうは深く感じ入った表情で、男に見えないように、そっと自分のレシートを捨てる。それに気付いた警部は、少し悲しそうに、でも微笑んでそれを見守る。

このあらすじを聞いて、「だから何なんだ」と思う人は、この本は向かない。ああ分かる、と思う人は、読んでみることを薦める。

たくさんの人に読んでほしいと思うけど、今の人にウケる感じじゃないよなあ。
それに、いまどき、1920年代にチェコ人が書いた本なんて普段目にするチャンスがないし、新しい本は無限に出版され続けていて、今後ますます隅においやられてしまうのかもしれない。こんなにしみじみ心にしみる本なのに、これから100年後にはもう残ってないかもしれない。そう思うとさびしいな。

挿絵はチャペックのお兄さんの手によるそうだ。ヘタウマ風の絵だけど、味がある。昔の穏やかな時代、だけど別の面では死がもっと身近だった時代に、こういうシンプルな線でシンプルな絵が描けたんだなあ。

「透視術師」「足あと」「最後の審判」「仮釈放者」などが特に心に残った。青い花の話は、そうでもなかったかな。

アレックス・カニンガム(自然環境大臣)

 

親愛なるジェレミー

大変残念ですが、自然環境担当の影の大臣を辞任することを申し出ます。

私の46年の労働党員人生の中で(その間には何度も地方議会議員となり、国会議員にも2度選出されましたが)、今回の国民投票ほど重要なものはいまだかつてないと、私はこの数週間人々に訴えてきました。党にとっても、これ以上重大な活動対象となるものはなかったと信じています。

悲しいことに、我々は党が行った残留キャンペーンに多くの労働党支持者を引き込むことに失敗しました。木曜の夜の投票調査で、労働党が最も強いはずの地域であまりにも多くの離脱票が投じられていることを知って、私は個人的に衝撃を受けました。これが、我々が敗北した大きな理由の一つであったでしょう。

私は、党幹部が残留について可能な限り強い主張を《するべきであったのに》しなかった、という事実が、今回の失敗に繋がったと信じています。この失敗の余波は、今後何十年にも及ぶでしょう。私が過去72時間内に聞いたことに基づけば、あなたをリーダーとして次の選挙に勝つことや、やがて来る保守反動勢力の政府からイギリス国民を救うことができるという確信を持てません。あなたが道を譲って、新しいリーダーにその戦いに臨むチャンスを与えてほしいと思います。

影の大臣として活動する場を頂き、保守党と直接対決するという得がたい経験をしたことについて、私はこれからも感謝の気持ちを持ち続けます。このような状況で辞任せねばならないのは残念なことですが、党《の将来》を第一と考えた結果であると信じます。

 

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自分の笑顔入り便箋っていうのがナルシストっぽいと思ったんだけど、他にもやってる人がいたので、一つのスタイルなのかも。

この手紙はとっても感じがよかった。この人は好きだ。

ハイディ・アレクサンダー(厚生大臣)

 

親愛なるジェレミー
 
影の内閣から身を引くことを、重苦しい気持ちで申し出ます。
 
先週の国民投票の結果は、私たちの国がかつて経験したことのない問題に直面していることを告げました。
 
EU離脱に関して経済的な影響を一番大きく受ける人々は、強力な対抗勢力を必要としています。不寛容、憎悪、分断などの増大に脅威を感じている地域社会もまた同様です。
 
これまで以上に我々の国は、政府に責任説明を果たさせることができる野党、またますます右傾化し時代に逆行していく保守党に対して、信頼でき、示唆にとむ代替案を提供できる野党を必要としています。
 
私はあなたを主義主張を持った人として大変尊敬していますが、この国が要求している答えを形成する能力があると思えません。次の政府を作るとすれば、トップの交代は必須だと考えます。
 
影の内閣に採用して頂いたことにお礼を申し上げます。

 

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平均的な手紙かな。「あなたには能力がない」とかズバッと書いちゃうあたりは辛辣。でも、イギリス人ってまあまあ言葉キツイし、普段から言われてたら免疫できるのかもしれない。

影の内閣閣僚の辞表は英語の勉強になるぞ(英国発)

英国に住んでいたことがあって、英国に関するニュースは割に気にかけているのだけど、今回のEU離脱投票結果にはびっくりした。

英国では労働許可証を得て働いていたので、そういう貴重な経験をさせてくれた国がああいう保守的な決定に傾いてしまったことに少なからずショックを受けたものの、その後のイギリス政界の激動は若干笑えるくらい面白くて、目が離せない。

日本じゃきっと起こらないレベルの大変化だけど、歴史を見ても良きにつけ悪しきにつけ独創的なことやる国なので、ただ黙って沈んでいくとも思えない。もしまた浮かび上がってくることができたら、日本のように無難に運営されてる国では得られない体験を経てくるわけなので、そうやって国としての足腰が鍛えられていくんだろなと思う。

そんなことを考えかながらネットで英国の新聞をチラ見したりしてたら、野党労働党が構成するシャドーキャビネット影の内閣)の閣僚が、党首コービンへの批判から軒並み辞職して行ったことを知った。残留呼びかけをあまり熱心にやらなかったことから、指導力にケチがついたということらしい。それだけ批判されても辞任しないで次の閣僚を据え付けて影の内閣を維持してるそうなので、彼がどういう野望を持ってるのかとか、想像するのも面白いんだけど、一番面白いなあと思ったのは閣僚の辞表の内容。

最近はすごいよな、党首に宛てた辞表の内容がツイッターとかで全部発表されるんだから。しかしそのおかげで、我々はフォーマルレターの生きた例を学ぶことができるわけですが。

仕事でフォーマルレター書いたりするんで、こういうの勉強になる。ありがたや。

手紙を読んでいくと、感心するくらい皆文章がうまい。ただ、習慣が書かせているだけで、あまり意味はないのかもしれないけど、日本の政治家はあんなふうに書かないので、真面目に読んでるとうっかり感動してしまうほど。少なくとも勉強材料としては最高。

いくつか訳してみることにした。根気と興味が続くとこまで。

ちなみに、以下のリンクから全員の辞表が見られます。

www.telegraph.co.uk